
1.動物愛護センターからの引き出し
2.膀胱腫瘤の診断結果:移行上皮がん
3.治療の経過
4.今後の医療処置
5.おわりに
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1.動物愛護センターからの引き出し
「なつみ」は、2024年8月5日に君津市から千葉県動物愛護センター本所に移送されてきた、メスの柴系雑種犬です。
しばらくの間、迷子犬としてセンターに収容されていましたが、飼い主さんからの連絡もないまま期限が切れたため、新たな家庭への譲渡候補犬となりました。
「なつみ」というのはセンター収容中につけてもらった仮の名前です。

9月には不妊手術も乗り越え、体調も徐々に回復していましたが、高齢(当時の推定年齢は12歳)、かつ5キロ台の小さい体でこのままセンターでの冬越しをすることになったら厳しいだろう、という訪問メンバーの判断で、10月15日にわが家に移動してくることになりました。
ボランティアさんのリレーで、センターからの100km超の運搬と、念入りなシャンプーをしてもらって、引き出し当日に動物病院を受診。

とても疲れていたようでしたが、全身状態を確認するための詳しい検査をその日のうちにひと通り行ってもらいました。
・便検査
・尿検査
・血液検査
・X線検査
・超音波検査
検査の結果は…
・便検査は寄生虫・細菌とも検出なし
・尿検査の顕微鏡所見では赤血球が+++で慢性膀胱炎の疑い
・血液検査の腎機能数値は、尿素窒素6 mg/dl、クレアチニン1.46mg/dlで、慢性腎臓病のステージIIとの判定
・X線画像では腎臓に年齢相応の石灰化が見られる
・超音波検査では尿道~膀胱に1センチ強の腫瘤あり
膀胱付近の腫瘤については、良性のポリープの場合もあるが、最悪がんの可能性もあるとの説明を受けました。ただ、この日の超音波画像からははっきりした診断が難しいとのことで、少し落ち着いてから再検査をすることになり、止血剤と抗生剤を処方されて帰宅しました。

わが家に着くと環境にもすぐに順応し、その日から快眠・快食・快便で、散歩にも元気に出かけました。7キロ前後あってもよさそうな骨格なのに、病院で測った体重はなんと5.3キロ。腎臓病用のフードも用意していましたが、体力回復を優先して当面は普通食OKとのことで、あの手この手で増量に努めました。

センター収容時から腎臓の数値が悪く五感にも衰えが見られることから、推定年齢の12歳よりさらに高齢かもしれないとのことで、いぬ親さん募集をしない「看取り」の預かりっ子としてお引き受けしたなつみ。
しかし、人馴れは抜群で、日常生活には何の問題もなく過ごせていましたので、もし慢性腎臓病だけであれば、募集すればご理解くださるご家庭もあるのではないか、とも当時は考えていました。

2.膀胱腫瘤の診断結果:移行上皮がん
処方された薬を2週間服用し、10月30日に2回めの通院。この日、再び膀胱の超音波検査を受けました。
今回は安静状態で連れてくることができたためか、腫瘤部分の輪郭がはっきりと確認できました。膀胱の内腔に向かって、表面に凹凸のある塊が突き出している様子がわかります。

確定診断にはカテーテルで組織を採取して病理検査を行うのが一般的だそうですが、採取がスムーズにいかない可能性もあり、先生もその必要性を慎重に検討されていました。
結論として、身体に診断のための負担をかけることは避け、これまでの検査結果や投薬への反応などから総合的に判断して、膀胱の「移行上皮がん(尿路上皮がん)」として治療を進めることになりました。
3.治療の経過
犬の膀胱移行上皮がんの多くは、悪性で転移しやすく、根治は困難と言われています。
治療法としては、外科的に手術で腫瘍を摘出するか、内科的に投薬治療で進行を抑制するかになりますが、なつみの年齢や腫瘍の位置を考えると外科手術は難しく、腎機能が低下しているため投与できる薬も限られています。
しかし、治療をしなければ腫瘍が急速に成長して尿の通り道をふさぎ、命にかかわる緊急事態に陥ります。また、肺など他の臓器に転移すれば、痛みや苦しさを常に感じながら生活しなければなりません。
治療の選択肢は多くはありませんが、なつみが残りの犬生をできるかぎり平穏に過ごせるように、がんの進行を抑えるための治療が始まりました。
「バキソ」投薬治療(2024年11月~2025年8月)
「バキソ」(一般名ピロキシカム)は、人間用の消炎鎮痛薬ですが、犬において移行上皮がんの増殖を抑える効果が知られており、膀胱がんの治療にも使われています。
最初は2日に1回の投与、夏前からは1日1回の投与を行い、結果としてこの薬だけで半年以上、症状を大きく悪化させることなく普段の生活を維持することができました。
夏ごろには体重も保護時から2キロ以上増えて7.4キロとなり、見た目にもふっくらとしてきました。夜明けとともに庭に出て駆け回り、昼間は涼しい室内で眠ってやり過ごす、という生活を送って、体調を大きく崩すこともなく酷暑の時季を乗り切りました。

ところが、8月末に先生から、「バキソが販売終了になる」というお話がありました。人間の治療にも使用されている一般的な薬と聞いていたので、入手できなくなるなどとは思いもよりませんでした。
ただ、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)のため、長期投与した場合は薬剤耐性や腎臓への影響が懸念されるそうで、先生も腎数値をにらみながら他の薬への切り替え時期を見極めておられたようでした。
引き続きがんの進行を抑制するためには、なつみにも使うことのできる他の薬が必要になりました。
「パラディア」投薬治療(2025年9月~11月)
「パラディア」(一般名トセラニブ)は、犬の肥満細胞腫(がんの一種)の治療薬として開発されたものですが、現在では移行上皮がんを含む他のがんの治療にも用いられるようになっています。
目的とする腫瘍細胞の特定の分子にのみ働きかける「分子標的薬」であるため、正常な細胞へのダメージが少なく副作用は比較的軽度とのことで、バキソの代わりとして1週間分(4回分)を処方されました。

その時は「使える薬がある」ということでホッとして帰宅し、投与を開始しましたが、落ち着いてから医療費の計算をしてみて愕然としました。
分子標的薬のパラディアは、獣医療のみで使用される比較的新しい薬のため、1日あたりの薬代がバキソとは一桁違いました。これを月単位で使用することになったら…「看取り」の子にこの治療を始めてもよかったのだろうか…。
慌てて中止も視野に入れてちばわんに相談をしたところ、検討の末、治療を許可していただくことができました。
パラディアの投与にあたっては、最初の6週間は毎週通院して副作用の有無を血液検査で確認し(貧血やアルブミン値など)、適切な用量・用法を決定してもらう必要があります。
なつみの場合、軽度の消化器症状や貧血傾向などがあったため、この期間に投与間隔は標準の「2日に1回」から「4日に1回」となり、さらに、体重が7キロを切ったため1回の用量は25mgから20mgに減りました。
ただ、投与している間も普段の生活にはほとんど変化がなく、足元がふらついたり散歩を嫌がったりということもありませんでした。

用量・用法も決まり、検査の数値も治療継続に支障がない範囲に収まっていたので、11月の頭にはまとめて1か月分(7回分)の処方をしてもらい、4日に1回の投与を続けました。
パラディアでの治療中に気づいた一番大きな変化は、尿の色でした。保護直後からの血尿はずっと続いており、夏ごろからは目視でもわかるぐらい色が濃くなっていましたが、投与開始から徐々に薄くなり、この頃には澄んだレモンイエロー色になっていました。腫瘍の成長が抑えられて出血が落ち着いてきたのではないか、という期待が高まっていきました。
ところが、7回の投与が終わって約1か月ぶりに血液検査を受けたところ、数値は悪化。副作用により骨髄の造血機能が抑制され、貧血傾向が強まっていたのでした。
この時点では治療ガイドラインの休薬基準をかろうじて上回ってはいたものの、投与を続ければ次の期間中にこれらを下回る可能性があるため、ここで1週間の休薬を行うことになりました。
さらに、休薬1週間を経た後の検査でも投与再開に必要な値を回復することができず、治療は一旦中止せざるを得なくなりました。
本レポート作成時の最新状況
2025年の年末、腫瘍の状態や転移の有無を確認するために約1年ぶりに超音波検査を受けました。

左が2025年12月、右が2024年10月の状態です。
膀胱内の尿量の関係で、画像の比較では対応する部分がわかりづらいのですが、動く映像で確認された先生からの説明では、
「腫瘍は高さ方向へはそれほど拡大していないが、横方向への広がりは多少見てとれる」
「昨年は明瞭だった膀胱壁との境目がぼやけており浸潤が進んでいる」「他の臓器やリンパ節への転移は見られない」
とのこと。
14か月間での進行度合いとしては顕著なものではなく、一定程度の治療効果があったようだという所見でした。素人目にも尿が通れる空間がまだ残っていることを確認できたので、少し安心することができました。
現時点では免疫力を向上させるための動物病院専用サプリメントを使用して、体調の維持・改善に努めています。血尿は再発していますが、頻尿など他の兆候はなく、食欲はかえって旺盛になるなど、状態はとても安定しています。

4.今後の医療処置
膀胱移行上皮がんと診断された犬の生存期間(中央値)は、まったく治療をしない場合は約2か月というのが厳しい現実だそうです。
なつみはこれまでの治療によってすでに1年と2か月、安定した状態を維持してきました。ちばわんへのご支援を使わせていただいて治療できたおかげで、寿命が丸1年も延びたと言っても過言ではありません。
先生からは、パラディア治療の再開や、新たな種類の分子標的薬を使うことも可能性としては示されていますが、副作用によるデメリットと引き換えであることも痛感しています。
シニアですので、坂を転がり落ちるように全身状態が悪化することも考えられます。免疫力向上のために使っているサプリメントを中心にした緩和ケアに移行することも含め、十分に相談したうえで判断したいと思います。
また、病状の進行に伴って、今後以下のような処置を受ける可能性も高いと思います。
・ステント留置術(尿道や尿管に細いチューブを設置して尿の通り道を広げる処置)
・終末期の対症療法(痛み止め、補液、サプリメントなど)
なつみが辛い思いをする期間をできるだけ短くできるように、適切な処置を受けさせていただいて、犬生のソフトランディングを手伝ってやれたらと考えています。

5.おわりに
わが家の2頭めの飼い犬は、股関節が脱臼して歩けない状態で愛護団体に保護された犬でした。保護中に二度にわたる大きな手術を受け、リハビリもしてもらって歩けるようになったころ、ご縁があり家族になりました。譲渡後、何の不安もなく健康な犬と変わらない生活を送らせてやれたのは、お会いしたこともない数多くのご支援者様のおかげでした。
預かりボランティアの立場になってからは、過酷な状況からようやく抜け出せた保護犬・保護猫たちが、少しでもよい状態で新しいご家族との生活をスタートさせるために、ご寄付が大きな支えとなっていることを改めて感じています。
なつみのように、病気やケガの治療中で募集ページに載っていない保護犬・保護猫たちは、その様子を知っていただく機会があまり多くありません。このレポートを通じて、皆様のご支援のおかげで手厚い医療を受けられていることをお伝えし、心より感謝を申し上げたいと思います。
ブログ『保護わん日誌』にて、なつみの通院記録をつけています。
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